ドラえもんの「心」は作れるか?―「脳とコンピュータはどう違うか」
脳科学は未解明な部分がたくさんあり、コンピュータは日々進化し続けている。したがって、脳とコンピュータの「現在の姿」を比較したのが本書ということになる。
|
脳とコンピュータはどう違うか―究極のコンピュータは意識をもつか 著者:茂木 健一郎,田谷 文彦 |
脳と現在のコンピュータの構造上の違いは、大きく以下の3点にまとめられるだろう。
- 素子数:脳の神経回路の構成単位であるニューロンの数は1000億。コンピュータの集積回路の構成単位であるトランジスタは1億程度。
- 複雑さ:脳の神経回路は、ひとつのニューロンが数千のシナプス結合をもちあう複雑な三次元構造。コンピュータの集積回路は基本的に二次元構造。
- 可変性:脳の神経回路は、成長や学習に伴って可変的。コンピュータの集積回路は基本的に固定的。
ただ、いくら中身の構造に違いがあるとしても、コンピュータが「機能的に」脳と同じふるまいをするようになれば、そこには人間と同様の「心」が生まれたと認めざるを得ないと私は思う。ドラえもんといっしょに過ごしたら、こいつにゃ心がある、と思わないわけにはいかなくなるだろう。
ただ、人間と「同じふるまい」ができているかどうかの客観的判断には、ついたて越しに会話して破たんがなければいいというチューリング・テストよりも、もっとはるかに高度なテストが必要だと思う。
では、そのテストに盛り込むべき要素は何か?
この問題を考えるのに、本書はとても役に立った。類書に柴田正良「ロボットの心」という素晴らしい本があるので、それと比較して本書はやや軽さが目立つが、脳とコンピュータ研究の最新の成果をひと通り集めて、なおわかりやすく提示してあるのはさすがだ。
志向的クオリア、一発学習、直感、創造的思考、感情…。ドラえもんがクリアすべきテスト項目は多い。道のりはまだまだ遠いようだ。
[MEMO]------------------------------
*「ムーアの法則」(=「集積回路上のトランジスタの数は、18カ月ごとに2倍になってきており、今後もそのペースで増え続ける」)は、1965年に発表されたものだが、幾度もの技術的な壁を乗り越えて今日まで成り立っている。
これにしたがえば、1000億というニューロンを抱える脳と同程度の素子数をコンピュータが備えるのは、2020年か30年頃になるという。素子数の点でいえば、いつかは脳とコンピュータが同等になる(そして、脳がコンピュータに超えられる!)日が来るのだろう。
*色の恒常性は、脳の第四次視覚野に至る神経回路網で、視対象の波長構成と周囲の光の波長構成を比較することで成立する(と考えられている)。こうした色の恒常性をコンピュータ上でもシミュレートする試みは盛んにおこなわれている。
*チューリングがホモセクシャルだというのは初めて知った。チューリング・テストの原型が、彼のそうした性質と関連していたとは。
| 脳とコンピュータはどう違うか―究極のコンピュータは意識をもつか 著者:茂木 健一郎,田谷 文彦 |
| ロボットの心―7つの哲学物語 著者:柴田 正良 |
| 固定リンク
「心と体」カテゴリの記事
- 万物の霊長たる能力とは―「アヴェロンの野生児」(2008.03.13)
- 幸も不幸も、見方しだい―「ラッキーマン」(2007.06.15)
- 意欲はある。行動はない。そんなときもある―「行動分析学入門」(2007.06.19)
- 四原色の世界に思いをはせる―「眼が語る生物の進化」(2007.06.20)
- あなたも私も友人失格です―「友情を疑う」(2007.06.27)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- うらやま楽しい現代版「まんが道」―「アオイホノオ 1巻」(2008.03.29)
- 「です・ます」宣言―「図で考えれば文章がうまくなる」(2008.03.21)
- 今月?のベスト&リスト(2007年12月~2008年2月)(2008.02.29)
- インモラルでも、信じたい―「電波の城 4巻」(2007.08.09)
- この結末には、きっと泣く―「医龍 16巻」(2008.03.20)


コメント
一風変わった脳内構造のホームページがあるのですが、気分転換にでも、いかがでしょうか?
投稿: ノース | 2007年7月27日 (金) 18時27分