鉄は熱いうち?―「男の子の鉄ちゃん脳は0歳から始まる」(AERA 2007年7月9日号)
男の子、0歳、鉄ちゃんときた。ジェンダー、生まれか育ちか論争、鉄ちゃんのこだわりと、四方八方に向かって火の粉を飛ばしてる。これを読んでみんなが素直に納得するとはとても思えない(笑)。
少なくともこの手の話をいま活字にするなら、「うちの子はやっぱり男の子なんで、電車とか好きでねえ」っていう日常会話レベルをきちんと超えなきゃつまらないと思う。
男の子の鉄道好きは、生まれつきそうなのか?それとも、親が電車のおもちゃとか与えちゃったから、そうなったのか?ということは、普通の家庭では区別できない。そんな男の子にはたいていの場合、親が電車のおもちゃを与えてしまっているからだ。当の本人に欲しいかどうかを確認せずに(笑)。
だから、男の子の鉄道好きは、先天的にそうなったのか後天的にそうなったのかを、日常観察できちんと確かめることはなかなか難しい。そこで、コントロールされた実験状況下で赤ちゃんを調べた研究がいろいろ存在するわけだ。この記事はそういう研究にはほとんど言及しておらず、全体的には、まあ日常会話レベルでおしまいかなあという感じ。
ところが、その中でひとつだけ面白い話が登場する。ジェンダー論の研究者、加藤朋江氏の2歳になる長男のエピソードだ。加藤氏は、
男性と女性とは、生まれついての身体の差異というよりも、それを根拠にした文化によって後天的に差異が広がるという考え方にこれまで親しんできた。
ところが、性差を意識させずに育てたいと思った2歳の長男が、勝手に鉄道好きになってゆく。そのため、
この子を通じて電車の世界を垣間見、私が所属している場所とは違うジェンダーの世界があることを知るにいたった。
生まれつきの性差を極力否定しようというサイドの人から、こんな率直なエピソードが出てくるのはたいへん意義がある。表情研究の第一人者、ポール・エクマンはこう言っている。
行動科学で発見されるものは、科学者の期待に添うよりも添わなかったときの方が信用できる。(「顔は口ほどに嘘をつく」P42)
どんな人でも、「自分の見たいものしか見ない」という不正なフィルターをもっているので、それをくぐってきた「期待に添わない」結果は、逆に非常に価値が高いということだ。だから、加藤氏の記述は実験的なコントロールも何もない日常観察の結果だが、じゅうぶんに興味深い。これは思わぬ掘り出し物だった。
ご長男の将来が実に楽しみだ。いっそのこと教育の効果によって、この先、人形好きとかに育ったりしないかな(笑)。
[MEMO]------------------------------
*この記事では、5歳から9歳くらいまでの男の子の鉄道好きエピソードが紹介されるのだが、もうそれが強烈すぎて。将来が不安になるくらいすごくオタク(笑)。鉄道に限らず、これだけの熱意でオタク的に物事を極める傾向って、小さな女の子にあるのだろうか…、とも考えてしまう。
*この記事でも登場する、サイモン・バロン=コーエンは、生後1日の段階で、男の赤ちゃんは機械的に揺れるモビールを見ることを好み、逆に女の赤ちゃんは人の顔を見ることを好むことを明らかにしている。
また、英米の研究者グループがベルベットモンキーのおもちゃの好みを観察した研究では、オスはトラックといった「男の子的なおもちゃ」、メスは人形といった「女の子的なおもちゃ」で遊ぶことが多いことが報告されている。
こうしたデータは、大人で観察される「好み」の性差が社会的影響によって決まるという考え方に反するように思われる。また脳の構造に関しても、男性と女性では前頭葉から後頭葉まですべての葉で、ある部分は男性が大きく、別の部分は女性が大きいという解剖学的な差がみられるという。(日経サイエンス2005年8月号)
*ただ、これをただちに男女の能力差に結び付けるのは、短絡的すぎる。茂木健一郎も「脳とコンピュータはどう違うか」の中で「世間で喧伝されている男女の脳差うんぬんの議論を鵜呑みにすることは大変危険だ」と述べている。
泥沼になりそうなのでもう止めるが、要はバランス、ということでしょう。
*佐々木倫子・綾辻行人による推理マンガ「月館の殺人」は、鉄ちゃんは生まれつきか否か、という検討にはあまり役に立たないけれど、一般女性と男性の鉄道に対する態度の違いをよく表しているのでは。
舞台は冬の北海道。吹雪の夜、豪奢な調度を備えたSL車内で、人が死ぬ―。
っていうサスペンスフルな話なのに、どこか緊迫感に欠ける。それは、佐々木倫子の持ち味か?いやいや、それは、あまた登場する、ファニーな鉄ちゃんたちのせいだ!!(笑)
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月館の殺人 上 IKKI COMICS 著者:佐々木 倫子,綾辻 行人 |
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コメント
安来の秘密。
投稿: 語り部 | 2007年7月19日 (木) 23時12分