心理面から見た絶望的「冤罪システム」―「『うそ』を見抜く心理学」
タイトルから、他人が嘘をついているときにどう見破るか的な本を思い浮かべるが、さにあらず。刑事事件の取調べの中で語られる嘘を暴くのが本書の内容だ。
しかもその嘘は、犯人が自分を守ろうとしてつく「さもしい嘘」ではない。無実の人間が長く過酷な取調べにさらされ、無力感に打ちひしがれて、やってもいない罪を認めるという「かなしい嘘」がテーマである。
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これはすなわち、冤罪の場面である。本書は、そこに必ず付きまとう「かなしい嘘」がなぜ生まれてしまうのかについて、取調べをする側とされる側の心理を鋭く分析したものだ。
単に理屈を述べるだけでなく、豊富な事件例をもとに説明がなされるので、非常に具体的でわかりやすい。というか、怖い。まるで蟻地獄のように無実の人間を引きずり込んでいく「冤罪システム」が。
無実の人が裁判を経て有罪になるなんてのは、普通に考えれば不自然なことだ。その不自然さには、大きく分けて2種類あると思う。
ひとつは、「無実の人間が罪を認めて自白するのはおかしい」ということ。やってないなら認めなきゃいいじゃん、と。被告人がいったん犯行を認める自白をしたが、その後否認に転じたという報道をたまに目にする。そのとき、「じゃあなんで一度認めたの?」「ほんとはやってるから自白したんじゃないの?」という疑問が浮かぶ人も多いと思うが、それはこの不自然さを感じていることの裏返しだろう。
もうひとつは、「無実の人間がすべての証拠や動機について矛盾なく説明できるのはおかしい」ということ。やってないんだから犯行内容も正確に知らないはずで、自白しようもないじゃん、と。もし変な自白が取られたとしても、裁判には被告人の味方である弁護士や、中立の立場で判断する裁判官もいるんだから、どっかで矛盾を見つけられるはずでしょ、というのが普通の感覚だと思う。
しかしどちらの不自然さも、「冤罪システム」の中では特におかしいことではなくなる。
前者の「なぜ自白するのか」については、まず、過酷な取り調べが被疑者を精神的に追い詰める。しかも、それに抵抗して否認を続けると、ひどい目にあうのである。
否認をつづけるかぎり、小さな事件でも身柄は外に出られないまま、起訴に持ち込まれ、保釈はつかず、裁判でも実刑を受ける確率は高くなる。大きい事件では情状酌量の余地なしとして、それだけで刑が重くなる。無実であっても、結果的には自白している方が有利だと言わねばならない状況が現実にあるのである。
さらに、実際の犯罪者と違って、無実の人間には特殊な心理がはたらく。ちょっと長いけど出色なので全文引用する。
自分は問題とされている犯罪をやってもいないのに逮捕され、厳しい取り調べを受けている。そのこと自体が非現実的なことである。ここで自白をすれば有罪にされて刑罰を受けるかもしれない、死刑になるかもしれないということは、理屈ではわかっても、それを現実感をもって受けとめることができない。…だからこそ、ここでたとえ自白しても、自分はやっていないから裁判所でちゃんと言えばわかってくれるはずだ、とも思う。自分はやっていないという確信のゆえに、かえって自白への抵抗感は弱くなる。
かくして無実の者は自白するのである。
だが、上の引用にもあるように、最終的に裁判官が無実とわかってくれればいいのだ。もうひとつの不自然さ、「無実の人間が犯行を説明するときの矛盾」が裁判の中で明らかになれば救われるのである。
しかし、ことはそう簡単ではない。警察、検察は裁判を有罪に持ち込むために抜かりなく準備をする。犯行内容をよくわかっていない(おそらく)無実の人間を取調官が手取り足取り導きながら、いかにして破綻のないストーリーを作っていくのかが、本書の実例でよくわかる。
そうした、いわば「でっち上げ」を、裁判官は見抜けないのか?
もちろん、見抜くときもある。でも、見抜けないときもある。その原因は、裁判の場でしばしば証拠採用の決め手となっている、「臨場感」のワナである。真実の体験者でなければとうてい述べえないような臨場感がある、という理由で自白供述の信用性が認定されたりするのだ。だが、取調べの中でみんなで知恵を出しあえば、そんな臨場感はいくらでも作り出せる。
しかも、裁判官の人の子だ。誰にでもはたらく、ある心性を止められない。これを指摘したのもまた本書の白眉だと思う。それは、「臨場しようという構え」である。
人は、自分で体験していないことを、言葉として受け取ってその場にいるかのように想像をめぐらすことができる。できる、というよりも、そうしようと常に待ち構えている。直接体験できないことも、臨場して味わうことによって、深く理解することができるからである。
(話の聞き手は)体験の当事者でないために、それを理解しようと、多分に想像力を働かす。そうして臨場感あふれる描写にしばしば乗せられ、話し手と同じように空間的、時間的パースペクティブを越えて、語られている現場についつい臨場してしまう。
裁判官が自白の臨場感を見誤るときとき、その裏にはこうした万人共通の心性が影響していると思われる。
…ということで、無実の者でもとにかく捕まえて来て、根負けさせて自白に追い込み、臨場感のある供述をでっち上げて起訴し、裁判官をうまく欺けば、有罪判決いっちょう上がりという、これが「冤罪システム」である。
もちろん、こんなことはあってはならない。例外的な事例だ。だが本来、例外としてもあってはならないことなのだ。
狭山事件、帝銀事件、甲山事件、袴田事件…。本書で取り上げられた数々の事件での供述作りの杜撰さと、その後の成り行きのむごさを見て、その思いを強くした。
[MEMO]------------------------------
*最近報道された冤罪事件では、富山で再審が始まった強姦事件もひどい。こっちの記事では、無実の人間から調書をでっち上げていく様子がよくわかる。
このエントリでは、取調官がなぜそんな理不尽に及ぶのかは書かなかった。それは、本書にそうした記述が少なかったからだ(それでも、前に紹介した「証言の心理学」よりは言及があった)。そこに踏み込むとややもすれば俗っぽくなりすぎるので、この手の本では扱わないのかもしれない。
そういうときは、フィクションを見るのもいい。朔立木「死亡推定時刻」は、虚偽の自白が作られる過程と、そこに関わる取調官の内面を知るのに、非常に有用な小説である。
*冤罪を疑われる事件の代表例である袴田事件については、1審を担当した元裁判官が「無罪の心証があった」と異例の告白をしている。
本書によれば、確定死刑囚として獄中に40年近くとどまる袴田巌氏は、いま精神をおかされているという。もし本当に彼が無実なら(本書を読んだ限りでは、私はそうした印象をもつが)、何度も審理を繰り返しながら彼を牢獄に送り、今なおその中に閉じ込めている日本の裁判制度とはいったい何なのかと思う。
*精神鑑定で不起訴になったり責任能力なしと判断されたりすることに対し、世間の不満が高まってきている印象がある。だいたい、あれってどこまで確かなモンなの?という根本的な疑問もあるだろう。
そういった向きは、本書193~196ページを一読されることをおすすめする。鑑定人の想像力が縦横無尽にかけめぐり、思い込みに満ちた結論が吐き出されることがあるという、よい見本である。これは果たして例外なのか、それとも…?
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コメント
日本政府は平気で何の罪もない国民の人生を破壊しめちゃくちゃにする最悪の犯罪政府だ。公務員は自分だけが優雅な犯罪人生を楽しむために、無実の人々の人生や生命をこれ見よがしに破壊して喜んでいる。現実に、公務員と取り巻きは警察とぐるになって、何の罪もない新井泉さんを強制的に監禁虐待して殺害している。公務員は新井泉さんをトイレの中や浴槽の中まで無理やり撮影して、新井泉さんから食事も睡眠もすべて奪い取って毎日毎日暴行のあげく殺したのである。これは戦争中に日本人が世界中で何の罪もないたくさんの少女を性奴隷として強姦虐殺していたのとまったく同じことを、公務員が新井さんに対して犯しているのである。こんな邪悪な日本政府を早く滅ぼさなければならない。
投稿: さやか | 2007年10月11日 (木) 04時52分