大胆極まりない「数寄者史観」―「へうげもの 1~6服」
ずっといい評判を聞いていたので、いつかは読もうと思っていた一作。6巻が出たのを機に、そろそろかと手を出してみました。
結果。この面白さはただ事ではないです。私の中でいま最も続きが読みたいマンガのひとつに躍り出ました。
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へうげもの 6服 (6) (モーニングKC) 著者:山田 芳裕 |
主人公は、織田信長に仕え、秀吉が天下を取った後はその重臣となった戦国武将・古田左介。この人の造型がとにかく秀逸なのです。
◆ 筋金入りの「数寄者」
「へうげもの」とは、「ひょうきんもの」の意。「武」に生きるべき戦国の世にあって、茶器だの椀だの飾り箱だのといった「名物」のことが頭の大半を占めているという、「数寄」を愛する変わり者の武将。それが、古田左介なのでした。
とにかく、戦の中で戦を忘れることランバ・ラルのごとし。というとジオン軍大尉に失礼なくらい、合戦のさなかに「名物」を追い求めます。ひとたび敵の城に攻め入ったなら、敵の兵士には目もくれずに「名物」を探す。素晴らしい「名物」を手に入れるためなら、時には敵将さえ見逃すし、戦利品をちゃっかり懐に入れたりもします。
こんな部下、持ちたくねえ~(笑)。
…と、思うのですが、これがどうして本当に憎めないキャラクターで、自分が信長や秀吉だったとしてもおそらく手元に置いておきたかったのではないかと。趣味に走り過ぎてしまうところがあるとはいえ、根は純粋ですし、「数寄」にかける情熱が戦や政で役立つこともあるので、上司からすれば異能の部下として重宝するんじゃないかと思います。
おまけに、たまに名物をあげときゃ忠誠度が猛アップしますからね。好みに合わないとがっかりされますが。まさに光栄のシミュレーションゲーム感覚(笑)。
◆ みんな「数寄者」
ただ、左介ほどではないとはいえ、戦国武将の多くがこんな価値観の持ち主として描かれています。「名物」をひと目見たい、手に入れたいと、戦の方針を変えたり大金をはたいたりします。信長も、秀吉も。
まあ天下人や大大名は権力の象徴としてそういった物を求めている感じですが、中には純粋に愛でる対象として欲している人たちもたくさん出てきます。それで命を落とす松永久秀とか、逆に名物を持ってとんずらする荒木村重とか。
そしてその頂点が、千利休です。武将じゃないけど、このマンガの頂点に君臨する人物は千利休と言って過言ではないでしょう。
その大物ぶり、黒幕ぶりたるや、私の大金時も青大将なみに縮むといった塩梅(なんのことかわからない人は本作を読もう!)。信長暗殺から光秀を打倒して秀吉の天下統一へと時代が大きく動いた背後には、「美」の統一をたくらむ千利休がいたのであります。
なんと大胆な歴史解釈。トンデモに聞こえるかもしれませんが、読んでたらその世界観と相まってねじふせられます。
思えば、交通の便が悪くて文化レベルもそれほど高くなかった時代、「美」は少数で、かつ偏在していたわけです。それらをすべて自らの手中におさめたいと思うのは、ある意味で「強者」の当然の欲求だったのかもしれません。
美しい物を手に入れたいと思う武将たちが戦い、美しい物とは何かをコントロールしたいと思う千利休が陰で糸を引く。本能寺のような有名なエピソードも、通説に逆らって驚きの展開を見せます。このマンガを読んでいると、なんだか、歴史は「数寄」によって動かされていたかのような気がしてきます。
司馬遼太郎の作品に見られる特徴的な歴史観を「司馬史観」といいますが、この作品はいわば「数寄者史観」で貫かれているのですね。
◆ 自分も「数寄者」
で、なんでそんな話を読んでてそれほど面白いのかというと、やっぱり自分も「数寄者」だからなんですよね(笑)。
この作者、「デカスロン」の頃から知っていますが、単行本は今回初めて買いました。「デカスロン」はヤングサンデーで毎週欠かさず読むくらい面白かったのに、単行本をそろえる気にはなれなかったのです。
絵がね。左介流にいえば、「どばあ」って感じの絵がどうも生理的にダメだったのです(笑)。
ところが、この「へうげもの」をちょっとブックオフで立ち読みしたところ、実にイイ感じでアクが取れてて。昔みたいなものすごいデフォルメは抑えられ、人物の表情の豊かさがうまいこと残り、背景はほどよく枯れていて、全体として画面が「美しい」のです。「しゃさぁ」って感じ(と言われても)。
おまけにストーリーが実に面白い。ブックオフで2巻まで読んで、「どうにもこれは買わねば気が済まぬぞォ古左!」となりました。(実際、「続きを読みたい!」と思わせるように、各巻のヒキにはかなり気を遣っている感じがします)
そこで私の中の「数寄者」は、普通の書店へと新品を買いに走らせるわけです。しかも、すでに読んだ1、2巻も含めて6巻全部。
この変なこだわりと蒐集癖。左介の振る舞いに似ている気がしてならないです(笑)。
ともあれ、本当に面白い「へうげもの」。今、古田左介は古田織部正となって、焼き物のブランドを作る一大プロジェクトに乗り出しています(これを完全に私費でやってるのが男前)。
平時にはそれもよいでしょう。しかしこの先には、関ヶ原が待っている。再び戦時となったとき、左介はどのように立ち回るのか。実に見物です。
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へうげもの 1服 (1) (モーニングKC) 著者:山田 芳裕 |
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